2030年メディアのかたち‎

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)

2030年が意識されているものの,実際には現在既に実現されているのかな?と思ってしまい,特段未来を感じることはないがインターネットをフル活用している人たちが日常的に行なっていること,それがもっと多くの人に広まるという面,それから実際その流れが広がるにあたって企業がどのようにアピールするべきなのかを考えるための書ではないかと思う。
やはり未来を考える上で大事なのは旧メディアの発展を含めた過去の事例だ。インターネットの世界は通信速度の向上からHTMLや過去に収録済みの動画,写真等の非同期メディアからIM,音声チャット,そして動画のリアルタイム配信という同期メディアへと流れが進んできた。これは既存メディアも同様で非同期メディア中心の世界から同期メディアのテレビやラジオ,電話の発達へ向かった。インターネットの世界の非同期メディアは検索エンジンのおかげで現在でもインターネット利用の大部分を占める。それは同期メディアとなる動画や音声をリアルタイムで検索が出来ないため,そのストリーミングが現在行われているということを知らなければ見ることも出来ないからだ。今行われていることは検索エンジンに任せても出てくることはない。検索エンジンで見つからないものなのだ。Googleを含め検索エンジンを提供している会社としては次にこの分野を磨くことでさらなるインターネットの発展をもたらすだろう。
また,著者は本書の中で現行のGoogleサービスのままでは衰退するのではないかという内容が記載されている。それはメディアの流れとして巨大な情報の発信元がマスに対して働きかける「1対多」の世界から,複数の情報発信元がマスに働きかける「多対多」への移行,そしてそこから次のメディアは個々人にあった情報を得られる「多対1」へと変化することが書かれている。現在のGoogleは「多対多」の王者であるという位置づけから来るものだ。「多対1」のサービス終着点として「一人一人の顧客に最適であること」の重要性が語られている。現在のRSSやメール,SNSを一つの画面で全て閲覧ができて整理されている状態,そこに向かうという内容だ。この内容は特段新しいものではなくGoogleが提供するiGoogleや様々なレコメンド機能も含め複数のインターネット業者が模索している部分だ。また検索連動型広告が広告業者の主役となっている部分を憂いているが,これは必然ではないのだろうか。広告は興味が無ければスルーされることは間違いないので,どのようにすれば興味がある分野にたいし適切な広告を出すのかが重要となる。既存メディアでは個人の興味を把握することは難しく,仮に把握出来たとしてもリアルタイムに情報を提供することが出来ないという時間の問題もある。
私個人的には,将来のメディア像としての著者の描く世界には概ね同意しているが現在の各ウェブサイトや人に紐づく状態が,ある程度緩やかになるのではないかと考えている。それはある一つのウェブサイトをRSSへ登録した場合,個人サイトであればこちらが興味のない日常の情報が含まれてきたり,大手メディアであっても興味のないニュースが入ったり,未読ばかりが増えて実際に見たい情報を得るのに時間がかかるという状態から,各1記事1記事が分離,独立して,さらにそのひとつひとつに複数のタグ・キーワードのようなものが付くことで必要な情報だけ受け取ることが可能となるというものだ。これは既に実現されているといえば実現されている。それはGoogle Alertのフィード機能でだ。普段Google Readerを利用しているがGoogle AlertおよびGoogle Blog Searchの検索結果をフィードで吐き出し登録しているものも数多い。これは各記事ごとのタグやキーワードを付ける代わりにGoogle検索にそのあたりはお任せしてしまおうというものだ。既存メディアでも新聞はある程度ウェブの世界に入ってきた。次は雑誌だ。新聞も雑誌も記事ごとの分離・独立には親和性が高い。逆に本は分離出来ないものだ。SNSの世界ではそもそもクローズな世界であり,横串を通すことは難しいかもしれない。しかし日本で言えばmixiのような大部分の人が加入し,また紹介がなくても登録が出来るようになった時点で単に検索エンジンを阻害しウェブの世界を軽く分断しようとしているだけの存在となったに過ぎないと感じることもある。SNSの世界ももしかすると分離・独立させて必要な情報をすぐに取り出せる状態にすべきなのかもしれない。
また本書では情報の価値について後半触れられており,「情報無価値説」に対する反論と情報が価値を持つための唯一の条件として「関係性」があげられている。それは"ある情報と,それを受け取って利用する人との間に,関係性が成立すれば「価値」が生まれる"ということです。

< メモ >
1.情報の主導権は提供側から需要側に移る
2.メディアと社会構造,組織構造は双生児である
3.「多対1」に向かうメディア
4.信頼をどう確保するか

重要なポイント
「人間中心の情報社会を意識の中に持たねばならない」

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)

2030年 メディアのかたち (現代プレミアブック)