ケータイの未来

以前紹介した「ケータイの未来」
かなり辛口ですが、ながーい書評を書いたので、載せておきます。


ケータイの未来



ケータイの未来

・作者: 夏野 剛
・出版社・メーカー:ダイヤモンド社

携帯電話はパソコンと一線を画し、独自の発展をしてきた。常にパソコンと対比させながら、そしてパソコンの機能へ近づけることをよしとした風潮がある。また、携帯を製作するメーカー側も、どんな機能を携帯電話へ盛り込むかを常に考えてきた。持ち歩くという特性、常に身近に置いておかれる存在。それが携帯電話である。だが、ここにきて携帯電話の歩む先には大きく二つの方向が見えているように感じる。それはマイクロソフト側に立つのか、それともGoogle側に立つのか、である。即ち、マイクロソフト側に立つのであれば端末の機能を拡張し、HDDを積んだ端末も海外を含めて出てきてはいるが、端末になるべく情報や機能を搭載しようという考えである。また、Google側に立つのであれば、端末の機能や保存できる容量などは付加的なものでしかなく、あくまでインターネットという世界に様々な情報を提供し、活用させようという流れである。すでに米国の携帯電話では、Googleのほぼ全てのサービスを利用する事が出来る。GoogleGmailはもちろん、GoogleReader、GoogleCalenderなど、その情報は多岐に渡る。各携帯端末に様々な機能を載せたり、HDDを積んだり、HDDを小さくする技術を研究するには時間がかかる。そして、端末発売後、また次の端末に乗せる機能を考え、1から作る。そうこうしているうちに、モバイルでアクセスできるインターネットの世界は急速に巨大化していくことが予想される。もちろん、新しい機能が追加されれば、それだけインターネット上でのサービスも増えるため、機能が重要でないことは全く無い。
本書を読んでまず感じた事は、携帯の未来がMicrosoftを目指していると思わざるを得ない部分である。それはそれで一つの選択であるし、キャリアとして考えるべき事であることは間違いない。だが、昨今GoogleやYahooなどの検索エンジンが各キャリアと提携するというニュースが流れていることを考えると、モバイルサイト自体も加速度的に増えていくことが予想される。今まで各キャリアが「公式サイト」という名前を使い、各モバイルサイトを審査、精査し選んできた世界が、ゆっくりではあるが壊れていくように思われる。それは、各モバイルサイトをGoogleやYahooなどの検索エンジンによって検索が出来るようになるからである。また、公式サイトの多くは課金制をとっており、欲しい情報を得るためにはお金を払わなければならない場合が多い。それを避けるためにも検索エンジンを使うユーザーは増えると考えられる。モバイルサイトのSEO対策を専門とする会社まで出てきた。次はモバイル端末で各検索エンジンにて検索を行なった時に、いかに上位に表示されるかが重要となる時代の幕開けとなるのであろう。パソコンでの検索でさえ、検索結果の1ページ目、よくても2,3ページ目までしかユーザーは見ないというが、モバイルではさらにシビアになる事は間違いない。Yahooケータイでは、既存のメニューリストをYahooモバイルサイトの右肩に小さく載せている点では非常に評価できるのではないだろうか。メインメニューは電車の時間やニュース、天気予報などをすぐに見たいという人にとって、わざわざ検索する手間を省いてくれるためにある。課金制によって詳細な情報を得られないかもしれないが、少なくとも検索エンジンを使って検索するようなコンテンツとはしたくないというのが本音だろう。その点でYahooケータイの場合は公式コンテンツを生かしつつ、個別のモバイルコンテンツの検索も可能である点が評価できる。話はそれてしまったが、夏野氏は端末を中心に考え、コンテンツは必要としながらも、話の展開は端末または端末に搭載される機能という物理的なものを中心に物事を考えている。
また、夏野氏は本書75ページにて「通信インフラ技術を使うのはもちろんだが、ユーザーのライフスタイルとサービス事業者のビジネスモデルの両方を大きく変えられるかどうかが、大局での勝負だと考えている。」と述べているが、ここでいう「ライフスタイル」とはどのようなものを指しているのであろうか。現在、Suicaなどの電子マネーDCMX、iDなどのクレジットサービスに関しては、既存のクレジットカードから携帯電話に形が変化したに過ぎず、ユーザーの行動までは変えていないのが現状である。あとがき部分などを読んでも、特に代替である携帯電話というポジションを手放す事はない。本書を読んで、残念に感じたのが物事の本質が書かれていないことである。例えば、日本においてクレジットカードの利用頻度が諸外国に比べて低いというデータにしても、低い原因が明確に示されていないように感じた。諸外国では小額決済でもクレジットカードを使うのだろうか。夏野氏は小額でのクレジット決済をターゲットとすべくiDやDCMXを考えているが、より普及させる努力を怠っているとしか考えられない。それは早期にiDサービスによって三井住友VISAカードと提携をしたが、別にQuicpayサービスを実施するJCBより、店舗に備え付ける端末の共通化を図るべく提携の打診を受けたが、その申出を拒否しておりJCBauなど13社が別に「モバイル決済推進協議会」を設立するに至っている。今年に入り、端末の統一化をすべく協議が始っているが、夏野氏の理想像は自身によって普及を遅らせているように捉えられる。また、ICカードに関し、130ページにて「データを不正に盗み出そうとして物理的に破壊すれば、データ自体が破壊されてしまう」と述べている部分が、全く本質を語っていないと思った。物理的に破壊することを言うならば、パソコンも同様であり、データを不正に盗み出すという事の本質部分はまた別にある。パソコンのように外部からの不正プログラムが云々という事意外に、例えばICカードをかざす端末があるが、この端末から常に半径15センチ程度範囲だと思うが、微弱な電波を出しつづけている。その端末と携帯電話が通信する際に、データの漏洩がないのかどうかなど、通信面でのセキュリティが本質であることは明白である。
批判的な面を書いてしまったが、小額決済でのクレジット利用(携帯電話利用)を推進すべく、DCMXおよびDCMXminiという二つのサービスを投入した事は非常に価値があり、DCMXminiからDCMXへの転向者も出てくるであろう。DCMXminiに関しては、普段の携帯電話料金と一緒に請求される点で、顧客もわずらわしさを感じる事が少なくなり、かつ小額決済を目的としているため、受け入れられやすいものである。また、モバイルコンテンツは多岐に渡る事もあり「企業の経営層も「多様性」を持たせた方がいい」という夏野氏の言葉は最もだと感じる。各携帯キャリアの提供するサービスにより「新しい需要を作り出すという価値を重視」するという姿勢こそが重要な基礎部分である。「新しい需要を作り出すという価値を重視」するという夏野氏の戦略は、新たな価値を創造し、幅広いニーズを満たす事が可能となる。そのためにもPCの後追いではなく、PCで発展してきた技術を取り込みながら加速度的に新たな価値の提供を行っていただきたい。