私はこうして受付からCEOになった

私はこうして受付からCEOになった
おすすめ度の平均: 5.0
5 広く読まれていい本
5 1つ1つのことを全力で
5 等身大のTough Choices
4 タイトルから想像する内容とは違いますが
4 外資系で頑張る人へ

ヒューレット・パッカード社の会長兼CEOであるカーリー・フィオリーナさんの著書。どのような生き方をし,どのように伝統あるHPの会長兼CEOに上り詰めたか。それは常に女性差別,女性蔑視との戦いだった。女性として人の上に立つことが,アメリカでは相当障害となる。それはHPのCEOとなった時まで同様だった。恐らくHPのCEOに就いたときが一番感じただろう。CEOになるまでは会社の中で戦っていれば良かったがCEOとなりメディアに報道されるや否や,会社の中との戦いだけではなくメディア等の外部との戦いへ移行したからだ。だが,その蔑視に対する抵抗こそがCEOまで上り詰めた彼女の力だった。郷に入っては郷に従う。それが彼女のやり方だったということもあるだろうが,とても容易にまとめ上げることが出来る部署を変遷してきたわけではない。むしろ,難しい部署ばかり担当させられてきたといった方が正しいだろう。
彼女の正義感と行動力は若いときから存在し,本書内の「誰かが利己的な目的を達成するために,根も葉もない話をでっち上げて他人の人格を傷付けることに,正義感から怒りを感じた」という文章からもうかがい知ることが出来よう。そして,彼女の行動から学ぶことも多い。
「他人に説明するのは,本質を理解する最高の方法」
彼女は仕事を覚える,仕事の全体を把握するために他の人に訪ねて回り,質問攻めにした。そこから学び,常に現場を大切にしていた。そして,自分の正義と同様に部下をも思う人だった。あるとき部下が仕事のことで権力を振りかざされ,脅されていると知ったときは自分より偉い人であろうとも,謝罪を要求した。「最後までやり抜く覚悟がないなら,人を脅してはいけない。こちらが絶対に正しいと確信がないなら,そして本当に重要な問題でないなら,脅してはいけない」「どんな人も敬意を払われ礼儀正しく扱われるべきだ。のちに私は解雇しか解決策がない場合もあることを知るのだが」
HPのCEOとして組織改革を行い,会社として強くなろうとしていた。もちろん,それがCEOとしての仕事なのかもしれないが,時にアナリストからの評価等,株式についてのみ考えている人がいるのも確かなことである。だが,「いちばん危険なのは,逃げ出すことなのだ。大事なのは,目標に向かって進み続けることである。失敗したら立ち上がって前を向かなければならない。」「一度や二度の四半期でアナリスト予想を下回るのは致命的ではない。致命的なのは,道半ばにして諦めることである」
HPの創業者家族がコンパック買収に対し反対した理由は金が絡んでいたが,メディア等,外部の人々にとっては話のネタにしかならず,フィオリーナは悪役に回ったといった印象だ。コンパック買収は日本でも話題に上ったが,当時の私にはそれほど印象深いものでもなかった。フィオリーナさんがCEOを外れた事は新聞で読んだ。フィオリーナさんがHPのCEOであったことは,退社のニュースで初めて知ったが,デルを抜いて現在売り上げが一位をキープしているのは,この組織改革のおかげなのではないか?と考えてならない。
カーリー・フィオリーナさん自身,自分がなぜHPの取締役会で解任されたのか。その理由が全く分からないという状況のようだ。本書の最後にその可能性が示されているが,彼女が取締役会で読んだ文章がそのまま掲載されている。その文章を読む限り,彼女はHPのCEOを辞めるつもりは微塵も感じさせず,むしろ組織改革は道半ばであると言わんばかりである。
HPのCEOを解任したあと,彼女は心から笑えるような幸せの生活を送っている。現在,何をしているのかはわからないが,彼女が仕事を通じて学んだ事やMBA教育は今後どの企業へ入ったとしても役立つ知識だろう。そんな彼女の激動の人生をうかがい知ることが出来る書である。