暗号化 プライバシーを救った反乱者たち


暗号化 プライバシーを救った反乱者たち



暗号化 プライバシーを救った反乱者たち

非常に面白い本です。
インターネットの公開鍵、秘密鍵の話。


暗号はもともと軍事目的に利用されていた。有名なものではエニグマなどがあるだろう。したがって、1960年代のアメリカでは暗号は国家機密とされ、本や論文などが機密扱いとなっていた。そのため、一般に出回っている暗号の本といえば、たいした内容もなく、一般の人にとっても全く重要視されていなかった。日本でいうクロスワードなどのように、新聞や雑誌の一番最後に載っている時間つぶしの道具でしかなかったのだ。その当時、暗号の研究は国の組織が秘密裏に行っていたものであった。当時はその機関の存在も明かされず、そこに勤めるものは家族に仕事の内容を話すことも許されなかった。そして、いわゆる頭のいい人々はその機関で暗号の研究を行っていた。当時は一般の人は暗号など使う必要性はないと信じていたのだ。
しかし、まだワールド・ワイド・ウェブなんて名前のつく前、一般の人にパソコンが普及し、ネットワークで商取引などが行われることを想像した人々がいた。そして、どうしたらイヴに気付かれずにボブとアリスの会話が成り立つのかというプライバシーに関し興味をもつ人々がいた。IBMがDES(デズ)という暗号化を発明したが、国の機関の言いなりとなることとなる。それと同じ時期にディフィーという一風変わった研究者も暗号に興味を抱いていた。
ディフィーが公開鍵と秘密鍵の理論を発見し、さらにその理論を実現させるために数学者が動いたりもした。しかし、その発見や論文は常に国からの圧力が加えられることとなる。この時点では研究者対国家という対立構造だ。研究会での発表にも圧力が加えられた。軍事的なものであると判断され、輸出規制がかかるだけではなく、発見当初は学会で発表をすることにも圧力が加えられた。その圧力たるや大変なものであっただろう。常に「訴える」という類のものであったが。しかし、学会などは「訴える」ことは不可能であると悟り、圧力に屈しることはなかった。
70年代に論文が発表されたあとは、それをビジネスへ活用しようとする動きがあった。ここからは企業対国家という対立構造となる。暗号化に対する複数の特許を取得したベンチャー企業が普及活動へ努めるようになる。最初は法人向けに、各々営業をして導入してもらうというものであったが、その後、ロータスのノーツへの導入、マイクロソフトへの営業など、インターネットの巨人たちに影響範囲は及んだ。しかし、それでも国家は一切輸出を認めようとしなかった。一時、国が折れると思われた時に、大統領選挙によって民主党クリントンが政権をとった。クリントン政権のゴア副大統領はマニアといわれるほど情報通信を重視していたが、その考えは、やはり国が暗号を管理すべきという立場であったため、再び国が力をもつこととなった。輸出規制の内容は次第に変わり、アメリカ国内では64ビットの暗号化まで許すが、国外へ輸出する製品の暗号化は40ビットまでだとする内容となった。
国がここまで暗号に対する姿勢を変えなかったのは、犯罪者やテロリストにも有利に働くと考えていたからである。それまでアメリカはインターネットなどの通信を傍受することで、未然にテロや事件を防いでいた実績を持っていた。そのためFBIも常に暗号を平文に戻せなければ意味がないという立場を貫いていた。国の立場は常に暗号を復号化できる鍵を国家の委託機関が握るというもの、または暗号強度の低いものを推奨していた。そのため、一時は内容は暗号化されていない鍵付きの送信などの規格を考え、世に広めようとしていた時期もあった。
そんなときに、すでにPGPというセキュリティソフトウェアが世界中に広まっていたと同時に、アメリカ製のものよりも外国メーカーの作った製品のほうが暗号強度が高く信頼されるという事態が起こっていた。アメリカの企業はことごとく外国でのシェアを奪われている現実があった。それでも2000年ごろまで輸出規制が外されることはなかった。
暗号化は世界中で議論されることとなり、パソコンの性能が向上していることもありネットスケープ社がブラウザで提供し始めたSSLが破られるなど、大きな話題があった。ネットスケープ社が上場して間もなくの頃であったため、衝撃は大きかった。暗号化を行うには種が必要である。暗号化の始点となる部分だ。この部分がそれほど種類がなかったため、ついには1日もあれば破ることができるまでのセキュリティとなってしまった。
研究者、企業などの努力、法廷での争いにより、輸出規制が解除されることとなった。エピローグにて語られているが、実はディフィーが公開鍵、秘密鍵の理論を発表する数年前に国家機関内で、この理論が発見されていたことが後にわかった。そして実用化の研究も一部行われていたが、機密事項ということで一般に知られることはなかった。その当時に機密扱いとなった論文は、その論文を書いた当事者が亡くなる頃に日の目を浴びることとなった。


メモ
P.378
公理1(暗号作成者へ)敵が暗号解読にかける時間と費用を甘く見るな
公理2(暗号解読者へ)平文を探せ
(By ロバート モリス)

<追記>
去年、アメリカでいろいろと議論となった検索エンジン開発会社に対する、ログの公開議論は、おそらくこの暗号化に関する企業対国家の構図が再燃したと述べても問題はないように思う.
暗号化技術の進展により、暗号化されたメッセージを解読することは非常に困難な状況となっている. また、今後暗号化された通信がさらに広がりを見せることは間違いなく、マイクロソフトもさらに暗号を強化する旨の発言をしている.
常に通信を傍受して事件を未然に防いできたアメリカとしては、未然に防ぐための新たなツールを探さなければいけない.そこで白刃の矢が立ったのは検索エンジンであったという流れではないか.
検索エンジンではアメリカはGoogleにしろマイクロソフトにしろYahooにしろ、強いことは間違いない.この検閲を許可した場合のリスクも考え、慎重に議論を進める必要がある.